疲労とストレスを科学的にリセットする方法

長時間労働で失われた集中力を、少しでも取り戻そう

どれだけ適切な栄養で体を満たそうが、どれだけ獣(=衝動)を扱うスキルを駆使しようが、そこにはやはり限界が存在します。肉体が疲れきったら集中力を保つのは不可能ですし、精神的なストレスがたまりすぎれば頭は動きません。
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特に調教師(=理性)は精神的なストレスに弱いため、定期的にリセットをさぼれば、獣(=衝動)に心をハイジャックされる確率が激増します。仕事の疲れが原因でジャンクフードを食べ過ぎてしまったり、勉強に根を詰めすぎた反動でネットの動画を二時間も見続けてしまったりとが典型的な例です。

2016年、慶応大学とメルボルン大学がおもしろい調査を行いました。
研究チームは約6500人の男女を集め、全員に普段の仕事ぶりを聞いたうえで集中力や記憶力などのテストを実行。全てのデータをまとめて次の傾向を明らかにしました。

・週に30時間より多く働くと、認知知識にネガティブな影響が出る
・女性の場合は、平均で週に22~27時間の労働がベスト
・男性の場合は、平均で週に25~30時間の労働がベスト
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研究では3つの認知テストが行われ、いずれも認知機能が最大化したのは労働時間が週に25~30時間の範囲におさまった人でした。一方で労働時間が週に50~60時間を超えた場合は、記憶力が下がり、頭の回転も遅くなり、集中力も激減していたそうです。

「労働時間が長くなると認知機能が下がる」との報告はほかにも多く、働きすぎの疲れが集中力に悪影響をもたらすのは間違いありません。レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉にもあるとおり、「仕事にへばりつく人間は判断力を失う」のです。

考えてみれば当然でしょう。人類学の研究によれば、アフリカでいまも原始的な暮らしを送る狩猟採集民の労働時間は平均で週に20~28時間に過ぎず、残る時間の多くは、睡眠、休息、遊びのいずれかに費やされます。人類が週に40時間も働くようになったのは、進化の過程からみればごく最近のできごとなのです。

無論サバンナの暮らしは厳しくて過酷なものですが、少なくとも狩猟採集民が先進国の人間よりたっぷりと休息をとっているのは間違いありません。私たちの心と体は、週に40時間を超すような労働にはまだ適応できていないと考えるべきでしょう。
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とはいえ、現代で週の労働を30時間におさめるのが難しいのも確かです。OECDの調査によれば日本人の労働時間は平均で週に45時間ほどで、働き盛りの30台なら週60時間の労働も珍しくありません。ただ、「働きすぎをなくそう!」と声を上げたところで、なんの解決にもならないでしょう。

そこで、疲労やストレスによる集中力の低下を防ぐために、ここから「科学的に正しい休む方法」をいくつか紹介していきます。実践しやすい順番に並べていくので、もし現時点で適切な休憩をとれていないなら、レベル1から少しずつ取り入れてみてください。

【レベル1】マイクロブレイク

「マイクロブレイク」は、数十秒から数分の休憩を細かくとる手法です。もっと長く休めるならそれに越したことはないものの、どうしても長時間の休憩が取れないときは、せめて「マイクロブレイク」を実践してください。

ある研究では、被験者にPCのモニタを見つめ続ける作業を指示し、その合間にたった40秒だけ花と緑が映し出された自然の写真を見せたところ、作業への集中力が高いレベルで維持され、タスクのエラー率も大きく減ったとのこと。もちろん肉体的なダメージをいやすには足りませんが、脳が感じた一時的なストレスを解くだけなら40秒でも効果は得られます。

もし脳になんらかの疲れを覚えたら、ちょっと自然の画像を見てリフレッシュするか、部屋の窓から大きな雲などを眺めてみてください。それだけでも、生産性の低下を防ぐことが出来ます。
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【レベル2】タスクブレイク

休憩が下手な人にありがちなのが、作業を停めて休んだとたんに獣(衝動)が暴走を始めてしまうケース。ちょっと5分だけと思って手を出したスマホゲームにのめりこみ、気づいたら30分が過ぎて仕事のやる気を失ってしまうようなパターンです。

心当たりがある方は、「タスクブレイク」を試してみてください。重要で難しい仕事のあいまに、簡単なタスクをこなしてみるという方法です。

簡単なタスクの内容はなんでもありで、メールチェックをするもよし、業務のメッセージにスタンプを返すもよし、今後のスケジューリングをするもよし、プライベートで必要な日用品をネットで買うもよし。深く考えずにすぐに完了できそうな作業なら、「タスクブレイク」として使えます。

簡単なタスクには一時的に脳の回転数を落とす作用があり、これでもある程度まで調教師(理性)の疲れを癒せます。と同時に、完全に獣(衝動)を仕事から切り離すわけではないため、作業へのモチベーションも保つことができるわけです。

重要な作業を行う前に、簡単にできそうなタスクをいくつもリストアップしておくといいでしょう。
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【レベル3】アクティブレスト

「アクティブレスト」は、軽く体を動かして脳をリフレッシュさせる方法です。休憩中に軽く散歩をする人は多いでしょうが、最近の研究では、どんなに軽い運動でも想像以上のメリットを得られることがわかってきました。

たとえば学生を対象にした実験では、最大心拍数の約30%という負荷で10分の運動を行っただけでも被験者の脳機能が改善し、認知テストの結果では集中力と記憶力に有意な向上が見られています。

「最大心拍数の約30%」という負荷は、ほぼ普通のウォーキングと変わりません。このレベルの運動で集中力が上がる理由ははっきりしませんが、多くの研究者は血流アップと脳内ホルモンの変化が原因だと考えています。ほんの10分の軽い散歩でも集中力が上がるのだから、定期的に実践すべきでしょう。
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【レベル4】ハイパー・アクティブブレイク

ハイパー・アクティブブレイクは、散歩よりもさらに激しい運動で脳を休ませるテクニックです。

「そんなに運動したら疲れてしまう!」と思うかもしれませんが、こと集中力アップについてはまったく話が異なります。マギル大学の実験データによればエアロバイクで15分のスプリントをした被験者は、その後で行った認知タスクの成績が大幅に改善したとのこと。激しい運動には、かなりの集中力アップ効果があるようです。
このような現象が起きるのは、激しい運動が脳のメモリを解放してくれるからです。

スプリントなどで心拍数の限界まで体を動かすと、誰でも難しいことは考えられなくなるでしょう。そのおかげで脳にたまったストレスが解き放たれ、調教師(理性)が主にを下ろしたような状態に変わります。結果として大きなリフレッシュ効果が生まれて、次のタスクへの集中力へが上がるわけです。

運動の強度は、生きが粗くなって会話が出来ないレバルを目指してください。この基準さえ満たせれば、エクササイズの種類はランニングでもなわとびでも構いません。

ただし、言わずもがなですが、睡眠不足のときや体が疲れ切ったときなどには、激しい運動は厳禁です。肉体のダメージが回復していな状態で心拍数を上げると、ストレスが強くなりすぎて脳機能が下がってしまいます。この手法は、あくまで体調が良いときに使いましょう。

(参考文献 最高の体調 鈴木裕)