緊張を力に変える方法とは
<答え>リアプレイザル
自分が大勢の前でスピーチをする場面を想像してみましょう。あなたの頭には「セリフを忘れたらどうしよう」「笑われるかもしれない」といった思考がうずまき、ほどなく全身にストレス反応が起きます。アドレナリンのせいで心臓は高鳴り、緊張で手が震えだすかもしれません。
こんな状況で、もっとも応急処置の効果が高いのが「リアプレイザル」です。
名前は難しそうですが、やることは簡単。スピーチの直前にストレス反応が起き始めたら、「楽しくなってきたぞ!」や「興奮してきたぞ」と自分に言い聞かせるだけです。
ハーバード大学のアリソン・ブルックス氏は、300人を集めた実験で、「リアプレイザル」の効果を証明しました。すべての被験者に「スピーチ」「カラオケ」「数学のテスト」などを指示したところ、自分のストレス反応を「楽しくなってきた」とポジティブに解釈したグループは、それぞれ17~22%も成績が良くなったのです。
ブルックス博士は言います。
「私たちは自分の感情をコントロールし、意図的に影響を与えることができる。自分のストレスをいかに言葉や思考に変換するかで、どんな感情も再構築できるのだ。」
たとえば、いきなり道端で知らない人に怒鳴られたとしましょう。普通なら「なんだこいつ!」と頭に血が上る場面ですが、一歩引いて「何か悪いことがあったのかもしれない」などと考えなおしてみるのも「リアプレイザル」の一種です。
それだけで、ある程度は感情の波がおさまっていくはずです。「リアプレイザル」が効くのは、そもそも「緊張」と「興奮」の感覚は、どちらも人体の反応という点では変わらないからです。人前でスピーチをするときでも、会社で昇進が決まったというときでも、人間の体は同じように心臓が激しく脈打ち、同じようにコルチゾールが分泌されます。
このとき私たちの体は外部の刺激に態勢を整えただけで、その反応を「緊張」と「興奮」のどちらに解釈するかは脳の判断にゆだねられます。
古代の環境を考えてみれば、当たり前の話です。サバンナで猛獣に襲われた時だろうが、おいしそうな獲物を見つけたときだろうが、すぐに行動を起こさねばならない点で両者に変わりはありません。ここで対処のシステムを2つに分けていたら、反応のスピードが遅くなるだけでしょう。
さらに、リアプレイザルは、使えば使うほどあなたをストレスに強くする性質を持っています。
被験者の脳をfMRIで調べたある実験では、いやな体験をポジティブに解釈しなおした直後から偏桃体の活動が低下し、「リアプレイザル」が上手くなった被験者ほどネガティブな体調に脳がパニックを起こさなくなりました。つまり「リアプレイザル」は感情の筋トレとしても使えるわけです。
ただし、この手法はおもに緊急時に使って下さい。いくらストレスの影響は考え方によって変わると言っても、すべてのネガティブな体験をポジティブに解釈できるはずがありません。緊張する場面で冷静な判断をしたいときや、他人のネガティブな感情に飲み込まれそうなときに使うのがお勧めです。
(参考文献 最高の体調 鈴木祐 P149抜粋)